平成30年の労働災害発生状況から労務不能の場合の保険給付を想定してみたら‥

労働災害の発生状況で、小売業、社会福祉施設、飲食店などの第三次産業において、いずれの業種も「転倒」が全体の約3分の1を占める上、近年大幅に増加していることが目につきます。また、転倒は、性別年齢別で見ると50歳以上の女性、特に60歳以上の女性で多く発生しています。

厚生労働省はこの対策として、これまで行なってきた転倒災害の防止のための施策に加え、平成31年度は、小売業、社会福祉施設、飲食店の安全推進者(安全担当者)を養成する講習会の開催等によって取り組みを促す、としています。 o

いくつかの新聞では、政府が「希望者が70歳まで働けるようにする高年齢者雇用安定法の改正案」を国会に提出する方針であることから、専門家の意見として「政府が高齢者雇用を進めるならば、企業に高齢者への安全対策を徹底させる制度を整えることが必要」と載せていました。

さて、会社で働く高齢者が仕事中に転倒し、そのケガによって仕事ができないときは、労災に休業補償を請求し受給することになります。65歳以上の高齢者で考えてみますが‥、この年代は老齢年金を受給していることが多いと思われ、このような老齢年金を受けながら休業補償も共に受けられるものでしょうか。

これについては、「同一の事由」ではないため、減らされるとか、支給されないとか、といったいわゆる「併給の調整」はありません。

では、会社で働く高齢者が、仕事中や通勤途中でなく、家事をやっていたときに転倒して、仕事ができない状態になったとすれば、健康保険に傷病手当金を請求することになります。この傷病手当金と老齢年金はともに受給できるものなのでしょうか。

また、転倒した影響で歩きづらくなったから‥などの理由で、退職した場合はどうなのでしょうか。

①1年以上健康保険の被保険者であった、②資格喪失の際にその給付を受け得る状態にあった、という2つの継続給付の要件を満たせば、退職後も一定の期間支給されます。なお、傷病手当金は原則として任意継続被保険者には支給されませんが、継続給付の要件を満たす者が任意継続被保険者になった場合は、その継続給付は行われます。

このように傷病手当金の継続給付の要件を満たしていれば退職(資格喪失)しても、傷病手当金は受けられるのですが、高年齢労働者は老齢年金を受給していることが多いので、この場合は、どのような調整がなされるのか見ておかなければなりません。

傷病手当金には「老齢退職年金給付との調整」というものがあり、傷病手当金の継続給付を受けている者が老齢退職年金給付の支給を受けることができるときは、傷病手当金は支給されないことになっています。

労災の場合、保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない、とされていることに比べるとこの点は大きな違いです。

65歳以上の高年齢労働者の場合、老齢年金を受給していることが多いので、この辺りのことも高齢者雇用の留意点といえるでしょう。