労働者が会社に損害を与えた場合の損害賠償を補償する身元信用保険
ご存知でしょうか?損害保険会社の商品に「身元信用保険」というものがあります。これについてハローワークで配布している『公正な採用選考のために』という冊子では、企業にその保険への加入を推奨しています。その理由は、身元保証書を採らないようにして、採用される人に必要以上の心理的圧迫を与えることがないように、ということです。
「公正な採用選考のために」H26.1 厚生労働省埼玉労働局職業対策課・公共職業安定所
【身元保証書】:企業の中には採用が決定(内定)すると、「身元保証書」の提出を求めるところがあります。これは、労働者が使用者に損害を与えた場合に、その損害賠償を補償するという性質のものでありますが、保証人としては、どれだけの損害賠償を負わされるかわからないという恐ろしさがあります。使用者と労働者との間に対等な労働契約があるとすれば、さらに労働者に身元を保証させる必要はないと考えられます。企業が不安であれば、身元信用保険等に加入すればよいでしょう。
もし十分な検討の結果「身元保証書」を提出させる場合も、労働者の人権を十分に尊重し、必要以上に心理的圧迫を与えることのないようにしてください。
一方、保険会社の身元信用保険のパンフレットでは、次のような説明がなされています。
身元信用保険と同様の機能をはたすものとして身元保証人制度がある
身元保証人制度は「身元保証ニ関スル法律」により身元保証人が一定程度保護されている
近年高額な保証を求められる事件が発生し、身元保証人から見ると非常に高いリスクを負う制度となっている
同法律では、雇用主である企業側に対して職務を変更した場合等の通知義務(法3条)を定めており、管理上の負担がある
身元信用保険を契約する場合は、総支払限度額を決めての契約となるそうで、この総支払限度額を企業が考える場合に想定される損害額は、どのくらいの金額になるでしょうか?
例えば平成26年夏に発覚した通信教育事業大手BN社の個人情報流出事件(派遣社員が個人情報を複数の名簿業者に約400万円で売却した事件)ですが、さまざまな報道によれば、会社は200億円を原資として個人情報が流出した被害者の補償に対応するとか、特別損失を260億円計上したとか、被害者全員が損害賠償を求める集団訴訟に加われば請求額が1兆6000億円になるとか、すごい金額が踊っています。これは直接雇用の労働者ではありませんでしたが、内部の者の犯行という点では直接雇用と変わりありません。企業が将来被るであろう200億円の損害を想定して身元信用保険に加入した場合、保険料はいったいいくらになるのでしょうか?とても支払えそうもない保険料になりそうですね。
それで、もっと身近な例で損害保険会社さんにお手数をおかけして、1名あたり5千万円限度とした場合のアバウトな保険料を教えていただきました(あくまで参考資料ですので保険料等につきましては、取扱いのある損保会社様へご確認ください)。
【身元信用保険の保険料の参考例】
<ケース1> 建設業や製造業 従業員10名 年間保険料 60,000円
<ケース2> 小売業や飲食業 従業員10名 年間保険料 250,000円
いかがでしょうか?これくらいの保険料ならば、行政が勧めているように身元保証書の提出義務をなくし、身元信用保険に加入できますでしょうか。
さて、「身元保証書」に対する考え方は、企業ごとにさまざまですが、近年では誠実に勤務する人物であることを保証する、という人物保証の面にウェイトをおいた考え方が広まりつつあるように感じます。